革命前夜

バブル期の日本を離れ、ピアノに打ち込むために東ドイツドレスデンに留学した眞山柊史。
留学先の音楽大学には、個性豊かな才能たちが溢れていた。
中でも学内の誰もが認める二人の天才が──
正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ
奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ
ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。

その一方で、自分の音を求めてあがく眞山は、ある日、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は、美貌のオルガン奏者・クリスタ。
彼女は、国家保安省(シュタージ)の監視対象者だった……。
冷戦下の東ドイツで、眞山は音楽に真摯に向き合いながらも、クリスタの存在を通じて、革命に巻き込まれていく。

ベルリンの壁崩壊直前の冷戦下の東ドイツを舞台に一人の音楽家の成長を描いた歴史エンターテイメント。

解説の朝井リョウ氏も絶賛!
この人、〝書けないものない系〟の書き手だ──。

 

という前評判で始まる本作は、本屋さんが「放心状態」になるというまさにその通りの作品である。

 

ドイツに留学した日本人の恋も歴史や音楽がからむと一筋縄ではいかない。人として好きになる、ただそれだけではない何かで結ばれたときに、人は人をどうしたら愛せるのだろうか。

 

音楽の才能を徹底的に愛してしまった人を見つけたとき、その人を単に才能が好きな人として、恋と切り離して考えられるだろうか。その人の才能に惚れてしまうことは、その人に惚れてしまうのとどう違うのだろうか。

 

そして、人は当事者にならないと恋に関われないのだろうか。東ドイツという場所か亡命を試みる彼女、政治的な利害のない日本からきた主人公、彼らが単に愛するというだけ結ばれるのだろうか。

 

愛する過程には非常に多くのものが要求されてしまう。そして、非常に困難な関わりがある。その中で、どう関わるべきだろうか。

 

「この国の人間関係は二つしかない。密告するかしないか。」

本当にそうだろうか。密告するために近づいたとしても本当にそれだけの関係性しか築かれないのだろうか。

 

この国を愛すると決めることの覚悟が問われるとき、人は強くなれるのかも知れない。国、というよりも生まれ育った場所を愛せる。