【感想】歴史秘話 外務省研修所ー知られざる歩みと実態☆☆☆

 日本の外務省研修所の歴史秘話。裁判所職員総合研修所、司法研修所の研修を経験しているため、研修所に思うことは多い。外務省研修所については、隣の芝生は青い、のだろうと思いながらも、良い研修所だと羨ましく感じた。

 

【内容】

 外務省研修所は、そもそもどのようにして生まれたか。

 日本は、欧米列強の圧力に圧されて鎖国を解禁した。不平等条約など不利益な地位に立たされ、富国強兵を目指し、西欧列強と対等な関係を築こうとしていた。その際、必要となったのが外交であろう。

 1919年に始まったパリ講和会議においては、戦後処理や国際連盟をはじめ、多くの委員会で話し合いが行われたが、日本は単に会議に出て記録するに止まるサイレントパートナーという不名誉な名前をつけられた。このような不名誉な外交に憤り、外交官改革が行われた。人材養成が叫ばれ、それがひいては、外務省研修所が設立につながっている。

 しかし、吉田茂は、戦前の外交の失敗を踏まえて外務省研修所を設立するに至ったが、やはり国際法の解釈や外国語の技術など技術面が重視されるようになったが、むしろ重要なのは外交に臨む外務省の姿勢であると述懐していた。

 吉田は、アメリカの大佐から、外交の勘のない国民は滅びる、と言われていた。

 英国人外交官ハロルド・ニコルソンがちょした「外交」(https://www.amazon.co.jp/%E5%A4%96%E4%BA%A4-UP%E9%81%B8%E6%9B%B8-H-%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%AB%E3%82%BD%E3%83%B3/dp/4130050168

で7つの美徳が挙げられている。

それは、①誠実、②正確、③平静、④機嫌、⑤忍耐、⑥謙虚、⑦忠誠である。

 外務省研修所は、職員の語学力について、TOEICなど外的な基準に依拠せず、自身の基準に基づいて評価している。

 

【感想】

 外交官の美徳として、誠実が最初に挙げられているのが面白い。外交といえば、イギリスの三枚舌に代表されるような自己の利益に基づいた打算が重要に思えるが、そうではないのだろう。もちろん、自国の利益が第一であるというのはもちろんであろうが、国家間の長期的な利益を踏まえれば、相手を信頼できるかどうかは極めて大事な視点になってくるのだと思う。特に、同盟は、条約で合意されているとしても、容易に破棄は可能であろうし、それでも条約が結ばれるのには、相手への信頼が底にあり、そこには誠実さが反映されているのだと思う。

 外務省研修所が職員の評価根拠を他国や民間の基準に依拠せずに自国の基準を持っているのは大変重要であると思う。外交官の技術として言語は基本で重要なものであるからこそ、他国などに依存してはならないだろう。対して、司法研修所は、指導内容がはっきりしておらず、あまりにも場当たり的な内容となっており、こちらともあまりに違う。しかし、隣の芝生は青いのであり、どこも中に入ると色々と思うところがあるのだろう。ただ、大事なのは、研修所の設立主旨であると思う。教育の歴史を説明することも研修にあたっては大事だと思うが、研修所の多くがその点について省いている。すなわち、研修の哲学についての説明を省き、技術的なことにばかり目が行っているのではないかと思う。この点については、非常に残念である。その意味で、外務省研修所が戦前の外交の失敗を踏まえて設立されたのは、非常に興味深く読ませていただいた。