【船を編む】

辞書とは何か。そもそもそんなことを考えた作品。

 

そもそも英和辞典なぞならいざしらず、辞書ってどこまでみんな使うのでしょうか。国語辞典も学生時代でもそもそも引いたことない、なんて人も多いのではないでしょう。私は仕事柄正確な言葉を使わなければいけなくなったので、辞書を引くようになったので、社会人になってからやっと辞書に興味を持つようになりました。そんな中でこの本を手に取ることができ、非常に興味深かった。

 

本書は、昔から言葉が大好きだった主人公が辞書の編集者として、新しい辞書を発刊していく姿を書いたものですが、その中で辞書のあれこれが出てくることなんか面白い。

 

まず、恋愛の定義、まぁ主観でいろいろあるでしょうが、辞書的な意味だとどうなるんでしょうか。

【恋愛】特定の異性に特別の愛情を抱き、高揚した気分で、2人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、できるなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、つねにはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。【新明快国語辞典】

 

だそうです。本書の中でもこれはきわめて独特な解釈だと紹介されていますが、なかなか興味深い。この「やるせない思い」とか、なんだか日本人的な解釈だと思いますね。これ、英語だったらあり得ないでしょう。

 

勝手に他の言語でも調べてみましたが、

オクスフォード現代英英辞典によると、対象をfamilyやgirl or boy friendで分けてたりしますが、romanticという分類で【love】の項目をみると

【love】a strong feeling of affection for sb that you are sexually attracted to 

となっています。性的に魅了された相手に抱くものが【love】だと、なんだか身も蓋もない解釈ですね。

 

ちなみにラルース仏仏辞典からは

【amour】 inclination d`une personne pour une autre, de caractere passionnel et/ou sexuel

となっており、性的に特徴がある、または(そして)情熱が刺激される相手に抱く傾倒(直訳ですが。)

となっています。

他の辞書は適当に選んで抜粋しているのであまり意味を持ちませんが、本書でも紹介されているように、「特定の異性」を恋愛に組み込むのは現代において妥当なのか、という議論がありましたが、ゲイやレズビアンが議論されているが海外では、比較的早くそのような議論がされていたのかもしれませんね。

 

辞書の役割を考えると、あくまで普遍的にみなが共有して用いる意味合いに限定すべきですし、そう考えると、まぁ上記の外国語辞典によるような、淡白な表現の方が役に立つのかもしれません。おもしろみはないですが、辞書にそれを求めるのは少し違う気がしますしね。

 

話戻って、語釈というのはもちろん普遍的に存在するものではなく、編纂者が考えるものなんだと改めて感じました。辞書に載っている以上、普遍性が担保されていると思いますが(私は)、そうでもない。もちろん主観が入っているわけではありませんが、辞書によって色が出る。日常的に使用されるべき辞書か、対象は大人か小学生か、など、あくまで使用する目的に合わせて用いられるのが辞書なんですね。また、女性の説明であっても、

・妊娠が可能な人間

・男性ではないもの

・慈しみの感情を持っている人

 

など。時代とともに様々な解釈があったようです。妊娠可能なんて、妊娠できない人を排除しているし(あくまで一般性の問題なのでそこまで問題はないと思いますが。)男性ではない、ってもはや説明ではない笑慈しみの感情とかフェミニズムからバッシングを受けそうですね。

 

というわけで、普遍的なものを辞書に期待するのではなく、必要に応じて辞書を選ぶことが重要なんだとも考えました。そうすると、今自分が使っている辞書が妥当なものか考えたり..http://www.studytech.asia/jpdict.html

こんなサイトみつけたり。

 

まぁしかし、言葉に興味を持たせてくれる非常にいい本でした。お買い得な本です。

 

さて、以下余談ですが、国語の教科書に選ばれている本っていろいろあると思うんですけど、羅生門、こころ、舞姫とか。これは高校生か中学生で読むんですかね。確かに学校で名文学を学ぶのは非常に素晴らしいことだと思いますが、もっと国語に興味を持たせるような授業があってもいいし、本書を中学の国語の教科書に載せてもいいと考えたり。恋愛の定義とかかんがえさせたら、思春期いっぱいの恥ずかしい文章になると思いますが、おもしろいな、と。言葉、国語に興味を持たせてくれるそんな本としても本書は使えそうです。