革命 エマニュエル・マクロン

 現在のフランス大統領の自著である。他にもマクロン氏を扱う日本語書籍はあるが、レビューを見てみると、マクロン氏の年の差婚といったワイドショーで扱う内容が多いとの評価であったため、この本を買うことにした。

 

 さて、内容はフランス大統領としてこれからしていこうという施策が示されていた。フランス政治に詳しくないと、やや理解が難しいと感じられ、なかなか理解が容易ではなかった。書いてあることは平易であるが、フランス政治を知らないと、書かれている内容がどの程度妥当か分からないのである。

 

 とはいえ、本書の1番の肝は、「アンガージュマン」という言葉だと思う。この言葉は、実存主義の言葉らしく、哲学科を卒業したいかにもマクロン氏らしい使い方と感じられた。「アンガージュマン」とは、池上彰氏によると、哲学者のサルトルが政治参加や社会参加という意味で使うようになった言葉のようである。そして、サルトルのような実存主義者にとって、人間とは、置かれた状況に拘束されているが、同時に自由な人間として選択行動することが可能な存在である。自らが選択した行動による未来への責任を果たすために社会を変革しなければならないとサルトルは説いたらしい。

 

 当時39歳という若きリーダーは、本書の中で、中央集権体制からそれぞれに裁量権を移行させ、それぞれが責任を持って問題を解決していく社会を求めている。これこそが、「アンガージュマン」としてそれぞれが自らの社会のために選択行動していくこと、そんな社会にしていきたいのだと感ぜられた。マクロン氏自身が、国立行政学院というフランスの超エリート層であるにもかかわらず、「共和国前進」という政治団体を立ち上げ、そして、それに参加して政治家になったものの半分は政治経験がないものであるという、まさに、エリートが解決する社会でなく、国民一人一人が立ち上がって問題を解決するという社会を目指しているのである。本書が「革命」という題名の通り、フランス革命の系譜を辿るようなイメージなのだろう。

 

 これは、マクロン氏のフランスのイメージ、すなわち「フランスの唯一の真実とは、私たちが自らを解放し、より良くなろうとする集団的努力を続けていることだ。フランスの精神の中には、普遍性がある。」にも現れている。フランスは、移民も多く、宗教も多様で、多くのものが内包した国であり、価値観も時代によって変わると思える。しかし、フランス革命に端を発し、国民が社会を変え、単にフランス独自の価値観であるだけでなく、世界的な正当性(自由、平等、友愛)という価値観を持って行動してきた自負もあるのだと思う。とはいえ、イスラム原理主義の台頭など、フランスは分断の危機にも立っている。しかし、フランスが紡いできた歴史、フランスの文化的遺産を用いて、フランス社会が統合されていくのだという。

 

 今後行われる大きな政策としては、フランス自身の価値、そしてEUの中のフランスとして、世界でプレゼンンスを高めていくことである。そして、社会変化に柔軟に対応する政策を実行していく。特に、法規制の緩和による規制緩和や、公教育へ力点をおくといった改革が行われるのだろう。公教育への投資というのは、よくある政策だと思うが、進路指導を適切に行い、教育の効果を適切にならしめるというのは、非常に興味深いものであった。

 

 若きリーダーは、ではどのようにしてこのような力を育んだのか。それは、マクロン氏によると、祖母の影響が大きいという。教師であった祖母は、マクロン氏に様々なものを与えた。そして、孫への愛であり、自由を見つけるための努力、すなわち知識欲であった。

 

 本書を読んでみて、マクロン氏の経歴が非常に反映された政策だと感じた。例えば、銀行家出身らしく、金融の重要性を説き、かつ投資の重要性を説いて規制緩和を求めていること、エリートの公務員出身であることから公務員の改革にも力を入れていること、政党を立ち上げて自ら選択して行動していきたマクロン氏、哲学科出身のマクロン氏らしく、「アンガージュマン」という価値観を重要視していることなどである。

 私は、ナポレオンについて書かれた本もよく読んでいたが、コルシカ島出身といった出生が非常に価値観に反映されていると感じた(例えば、コルシカ島では家族を大事にするが、ナポレオンは政策の中で、自身の家族を各国の王位に即位させている。)。さらに、それがナポレオンの強みであり、他方で弱みにもなり、ナポレオン体制を崩壊させることにも繋がっていく(家族を王位につけたことで、各国から反発を受けていく。)。

 しかし、マクロン氏は、黄色いベスト運動への対策として、母校の国立行政学院の廃止を宣言したのである(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56388)。自らの出自と反する政策を果敢に行ったのである。

 私は、人間がもっとも難しいのは、自らの経歴、自身の歴史と反することを行うことだと思う。なぜなら、それは自己の否定につながるからだ。しかし、マクロン氏はそれを行おうとしている。

 このようなマクロン氏の行動は、一国のリーダーとして、自国を自己の利益のために使わず、フランスのために行動できるリーダーであることの裏返しなのではないだろうか。