どうしても生きてる 朝井リョウ
朝井リョウさんの作品は全て読んでいます。今回の作品も変わらずとても面白いものでした。
健やかな論理
「〇〇だから△△、という健やかな論理は、その健やかさを保ったまま、やがて、鮮やかに反転する。「満たされていないから他人を攻撃する。」はやがて「満たされている自分は、他人を攻撃しない側の人間だ」に反転する。おかしいのはあの人で、正しいのは自分。私たちはいつだって、そんな分断を横たえたい。健やかな論理に則って、安心したいし納得したい。だけどそれは、自分と他者を分け隔てる高く厚い壁を生み出す、一つのレンガにもなり得る。」
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「自分と他者に、幸福と不幸に、生と死に、明確な境目などない。」
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「事故や自殺のニュースを目にした途端、その死亡者のSNSのアカウントを特定するようになったのは、いつからだろうか。前の夫から離婚しようと告げられた日がきっかけのような気もするし、そんなこととは関係なく、SNSが流行する遥か昔から頭の中では行っていたような気もする。初めて死亡者のアカウントを特定できたときに感じたののは、自分でも驚くくらいの安心感だった。」
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「なんか、もう、いっか。って思ったんだろうな。わかるな、なんか。こういうことがあった辛くてたまらないもう死にたい死にたい死にたいって女装があるわけじゃなく、ふと、なんか、別にもういっか、ってなる瞬間。
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そのときだった。「恭平、新着メッセージがあります。」
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「なんだかわからないけれど、とても会いたい。そう伝えられればよかったのかもしれない過去が、今の私を次の線路に導いている。」
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何か全てが合理的なわけじゃない。全てを分析的に見られるわけじゃないし、そうすべきでもない。理由を見つけたら安心するけど、本当にそれがあっているかはわからないのに。
流転
「あのころは、自分たちの漫画もそうでありたいと、瀬古と何度も語り合った。そんな日々が懐かしくて、何より、恥ずかしい。リアル。熱。切実さ。本音。嘘のなさ。それらをまっすぐに守り続けることができると信じていた自分は、確かに、存在していたのだ。」
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「豊川は、物語を考える自分を超えて、自分に嘘をつかずに生きるって腹を括ってる風な自分を好きになっちゃったんじゃないの?」瀬古に会ったのは、その日が最後だった。
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「豊川は、奈央子から生理がこないとつげられたとき、正式な理由が見つかった、と思った。漫画から離れる正式な理由。」
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「そこには瀬古の絵があった。豊川から見ても、瀬古の作画技術はどんどん向上していた。ー続けていれば。」
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「流産」
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「「じゃあ」あのとき、慌てて結婚しなくても、慌てて就職しなくてもよかったのか。声になっていたのは、じゃあ、までだったはずだ。」
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「私の心配じゃなくて、自分の後悔なんだね。」
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「「漫画を辞めた理由も、結婚した理由も、自分に嘘をついて、勝手に他人に託さないでよ。勝手にこの子に託して、勝手に後悔しないでよ。」変わりゆくものに自分を託してはいけない。」
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「「営業の時に大切にしているのは、熱、ですかね。あとはお客様に嘘をつかず、本音で話すことです。」あ、と、豊川は思った。もう嗅ぎたくない香りがそこにあった。」
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「「これまでついてきた嘘を、せめて、これからの時間で取り返したい。豊川、協力してくれないか。」きっと自分は、この男についていくのだろう。豊川はこのとき、完全に、抵抗することを諦めた。だって、自分も本当は、そうしたかった。」
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「新たな課を営業部内に発足させる。君を、そこの課長に任命するつもりだ。」
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「会議室を出ると、そこに明石の姿があった。。。。明石は、自分に向き合ったくれていた。」
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「自分は明日、きっと、会社に残ることを選ぶ。」
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自分の人生を乗り越えるとき、他人を理由にはしたくない。そうしないと、ずっと乗り越えられないまま、何かのせいにしてしまう。それだけじゃない。ずっと忘れられない。そして、自分を保てなくなる。そして、離れられなくなる。
籤
「私たちの現実だけは、暗転させてやらない。自分はこんなにも醜いのだ、ということを明かしたところで、本当はなんの区切りもつかない。なぜ、吐露した側はそこで悦に入ることができるのだろう。こんなにも醜い部分をさらけ出せたという点を、自分の強さ、誠実さだと変換して勘違いできるのはどうしてだろう。そして、さもその1秒後から新たな自分が始まるとでも思っているらしいことも、不思議だ。」
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「「しょうがねえじゃん。」ーしょうがないんだよね。」
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「この世界で、これまで、ハズレくじを引かされたことのない人たち。」
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「みのりは、空中に浮かぶ籤のひとつひとつを見て、思い出す。ー悪いおみくじでも、あそこに結んじゃえば大丈夫になるから。お母さん。私、一つだけではうまく結べなかったけど、全部をつなげられるような気がしてきたよ。」
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「全部繋げて、リボンにするのだ。そうすれば、つらいときには包帯として使える。人生を美しく包むものも、たくましく補強するのも、いつしかこの手でつかみ取っていた。だからきっと、大丈夫。これまでみたいに、不安で不安でたまらないまま、大丈夫になるまでどうせまた生きるしかない。」
感想を書こうとしたけれど、うまく書けない。絶望と希望を交互に織り成して、それでもどうしても生きることしか選択肢のない私たちに、それでも生きていけることを感じさせてくれる。それが幸福か不幸かわからないほどに。