村田沙耶香

「10人産めば1人殺してもいい」

センセーショナルな帯に惹かれます、「ご本出しときますね?」というテレビ番組で著者が話しているのを見て面白いと思い、購入。著者は殺人シーンを書くことを喜々として語っていました笑

 

さて、本書は、「殺人出産」という10人産めば1人殺してもいい世界、

産んだ人は産み人として社会に生命を生み出す存在として崇められる、そんな話です。

併録されているのは、三人での交際が当たり前の世界になる「トリプル」、婚姻に性関係を持ち込まない「清潔な結婚」、余命を自由に選べる「余命」です。

 

全話を通して、新しくなった世界の価値観と、それまでの社会の価値観(現在の価値観)が対立します。新しい世界の価値観にいる人は、どうしてもそれまでの社会の価値観を理解できない、また別の形で羨望を抱いたりしてしまう、理由はどうであれば。新しい世界の価値観からしか理解できない。そうして、また価値観は時代によって繰り返し変わっていき、普遍的な価値観は存在しない、そんなことが読み取れる物語。

 

とても、陳腐だなぁ、と思います。私の感想が。以前、物語で伝えたいことは、簡単に要約できない、要約できるなら物語で伝える必要はない、という話を聞きました。確かに!!あまりにも表面的な形容でしかないな。本が駄作なのか、私の感想が駄作なのか。失礼なことだ。

 

しかし、いつ見ても価値観が崩れる姿を見るのは好きです。価値観の崩れって人生の崩壊に近い気がするんです。三人での交際が普通の世界の「トリプル」で二人の性行為を目撃した主人公の激しい嘔吐感といったら。

 

話の途中で「正しい○○」という言葉が出てきます。正しい価値観、なんだそれ。普遍的に正しい価値観でなければ受け入れられないのだろうか。価値観は、確かに周りに受け入れてもらえなければ悲しいものかもしれない。でも、思う。価値観は、ある意味自分だけのものなんだ。肯定された嬉しい、否定されたら悲しい、でもそれだけ。肯定されなきゃいけないわけではない、普遍的である必要もない。自分の価値観を正しいと思うのはいい、でもそれは、自分の人生の中で考えればいいのさ。正しくない価値観は時に崩れそうになるけど、でも譲れないものだと思う。

 

価値観の違う人とは、その違いを知らないと話にならない。

 

ちなみに、著者が出している「授乳」は好き。人の身体に目をむく。