【感想】 BECOMING(マイストーリー)

 ミッシェル・オバマの自叙伝。決して裕福とは言えない環境から、成り上がったミッシェルが、バラク・オバマと結婚して人生が一変する。そんな人生の軌跡を描いた話。

 

【内容】

 子どものころは、努力の音を聞きながら育った。

 うちの両親は、私たち子供に対しても大人相手のような話し方をした。説教をすることはなく、どれほど幼稚な質問でも全て受け止めてくれた。面倒だからと言って会話をさっさと終わらせようとすることは一度もなかった。母も父もルールというよりもガイドラインを与えてくれた。

 バラクは社会の大きな問題にこだわり、自分がそれをどうにかできるかもしれないという無茶な考えを抱いていた。それまでも私の周りはみんないい人で、重要な社会問題について気にかけてはいたが、結局優先するのは自分のキャリア形成と家族を養うことだった。

 コミュニティ振興に取り組む上での最も大きな壁は、人々の中に、特に黒人の中に深く根ざしている無気力だという。

 私の友人の多くは将来のパートナー候補を評価するとき、まずは見た目や見込める収入といった外面に目を向けた。

 周りよりも秀でることをただひたする目指し、物事を完璧にこなさなければならないという義務館に従った結果、私はどこかで間違った道を進んでしまったのだ。学生時代は何年もあったのに、私は自分の情熱とじっくり向き合い、それを自分にとって意味があると思える仕事にどうつなげるかを考えたことがなかった。

 私はずっと無視と共にに生きてきた。無視の歴史が私のルーツだ。

 自分自身と自分の意見を知ってもらい、自分にしかない経験を本音で語ることには大きな力がある。他者を知ろうとし、他者の意見に耳を傾けることは美しい。人はそうやって前に進んでいくはずだから。

 

【感想】

 ある意味で、ミッシェルは、典型的なアメリカ人なのだと感じた。黒人の弁護士が少ない中で、自身の努力で成り上がり、世間的に成功だと言われる職業に就く。アメリカンドリームを成し遂げたと言っていいだろう。しかし、自分のキャリアを築くこと、キャリアに価値を重くおきすぎる傾向も見られる。もっとも、ミッシェルは、オバマとの出会いの中で価値を置ける仕事を見つけた。いつだって人は変われるし、その美しさは変わらない。自分の能力を高め、実現できることは、自身の人生を誤らせてしまう。私も、司法試験に受かったとき、その社会的評価から大企業の就活が非常に簡単であったとき、自分のキャリアをどのように形成していいか分からなくなる時があった。自分を試せる、高めることができるのは、非常に誘惑に駆られるものだ。もっとも、それが悪いわけではない。本当にしたいことであるならば。

 マイノリティの中で生活することはとても厳しいものがある。ミッシェルは、家庭の方針で黒人訛りを矯正されて育った。これは、社会的に成功する上で必要なことだろう。しかし、そうすると、黒人の一部から、お高く止まっているとか裏切りだとか言われたりする。ミッシェルは、無視が自身の歴史のツールと述べていたが、黒人として、マイノリティとして差別されてきた歴史は、その人自身の中に大きく根差したものなんだと思う。このような背景を知らずに他者を理解することは困難だろう。

 そして、子育てにもいい本だ。ミッシェルの親は娘とソクラテス問答をしている。子どもに疑問を持たせることは非常に重要なのだろう。