【感想】フランス刑事法入門☆☆☆☆

 フランスの刑事法、刑法、刑事訴訟法、刑事政策に触れた本。日本の刑法はドイツに影響を受けている部分が大きいからか、フランスに関するものは少ないと思える。そのため、フランス刑法に触れる意味で、とても参考になった。

【内容】

 フランスでは、刑の下限が撤廃され、裁判官の裁量範囲が拡大した。これは、フランス刑法が制定された当時、裁判官に対する不信感に根ざしていたものを考えると、裁判官に対する信頼に根差すものである。

 フランスでは、卓越した人権意識に裏打ちされ、セクシャルハラスメント罪、モラルハラスメント罪、マインドコントロール罪など無知や脆弱性濫用罪の制定、子どもや障害者を対象とした犯罪や上司や被害者など権力を背景にした犯罪については、刑罰を課す際に加重事由として扱われるなど、「弱きを守り、強きをくじく」正義感に基づく刑法と言える。

 殺人罪においても、15歳未満に対するもの、尊属や養親に対するもの、弱者を被害者に対するものなど弱者や家族関係については加重事由になっている。また、人種や国籍、宗教などを理由に行われたものも加重事由となっている。

 家族関係に関しては、親権者が生命に対する加害などを加えた場合、親権の即時剥奪などの規定が追加されたこと、夫婦間の強姦が明示的に処罰対象になっていること、未成年者や配偶者の扶養義務を2ヶ月を超えて履行しない場合、扶養義務者が住所変更をしない場合、未成年者の引渡しをしない場合、面会交流をする場合に住所変更をしてから1ヶ月以内に通知しない場合、未成年者の健康を危険に晒す場合、刑罰が科される。

 未成年に対する性犯罪については、暴行や脅迫に限られず、心理的強制、すなわち、年齢の差や権限などを根拠にされた場合には事実上権限が推定され、密室で行われていることの多い性的攻撃罪の立証の困難性を被害者に有利な形で緩和している

 モラルハラスメント罪など、律法的解決を図ろうとすることは、社会全体で合意を図り、問題としていく姿勢であり、刑法という基本法こそ、社会全体の合意で行われるべきものであるという意識の表れのように思える。

 刑罰の中で、社会内司法追跡というシステムがある。その中では、携帯型電子監視措置がある。また、性犯罪者などのための治療施設が設立されている。

【感想】

 殺人罪などの加重事由は、尊属が削除された日本との違いがある一方で、実際に裁判に対しては未成年者に対するもの、弱者に対するものについては加重事由になりえ、日本と大きく違いがないように思える。問題は、加重事由がほとんど法定されていない日本との違いであろう。そういう意味で、裁判官の信頼が少ないとも思えるし、重要な点は話し合いのもとで律法により解決するという姿勢が目立つ。

 家族の問題に対しても、積極的に刑罰を科す姿勢が見られる。家族の問題は、安易に刑罰で立ち入りにくい面があり、逆に、当事者の中でも、多少問題があっても法的な問題ではなく倫理的な問題と、または、倫理的な問題ですらない当事者同士の問題として捉えているものも少なくないだろいから、刑罰を貸すという視点は非常に重要だと思う。日本でも、刑罰をかして、家族の問題についても、一定の法規範性を持たせることも一つの考え方であると思う。特に、養育費を払わないことに対する刑罰は、支払わないことはネグレクトに近いと思うから、必須のように思う。

 以前、フランスの少年法政策について勉強した時も、たびたびフランスでは法改正が行われていた。社会の実情に合わせて、日本においても現場で様々な工夫がされているが、現場の工夫には限界がある。社会の実情に合わせて法律を改正していく、社会を考えていく姿勢というものが何よりも重要なのだと思う。

 海外の法律を学ぶと、日本法の遅れを感じることがある。しかし、海外で改正された法律が、設立された主旨の通り実際に運用されているかはわからない。例えば、モラルハラスメント罪が設立されたとしても、立証の困難さからあまり昨日していないかもしれない。逆に、日本ではそのような罪がないとしても、刑法や行政罰などでうまく対応している部分もあるかもしれない。ここら辺は、単に海外の法律を学ぶだけではわからない。だからこそ、単に隣の芝生を青く見るのではなく、深く学び、日本法に活かすことが大事であると思う。

 ただ、やはり日本の裁判官はよくも悪くも硬直的であるし、社会的な世相を読む力も高くないと思う。だからこそ、絶え間のない法改正をして、社会を変革してくことが重要であり、この点においてフランスの法改正に学ぶべき点は多いように思う。