バンクシー・アートテロリスト☆☆☆★★

バンクシーのすがたに迫る新書。

芸術を知らない私にも面白く読めました。ただ、芸術に疎すぎて、出てくる登場人物の半分は分からず、初心者にはやや分からないところも。とはいえ、とても面白い作品でした。

バンクシーは、正体不明の芸術家。

正体不明が貫かれているのがまたすごい。バンクシーは、地元ブリストルでは、当初は顔を出して活動していたらしい。だから、地元ではあいつか、みたいな所があるらしい。それでも外に漏れていないのは、地元全体でバンクシーを守っているんだと思う。地元の愛で守られている匿名性というのはなかなか美しい。

 

バンクシーの作品は、難民とか社会問題を扱っている。そこで初めて知ったのだが、スティーブ・ジョブズもシリア難民の子どもらしい。難民を受け入れることで、アメリカはあれほどの経営者を生み出す土壌を作り出すことができた。ジョブズが作り上げた利益を考えれば、難民を受け入れても十分お釣りは出てきそう。もちろん、簡単に利益考慮をすることはできないと思うけど。多様性は爆発だ、だと聞いたことがあるけど、その多様性がアメリカを支えているのかもしれない。そう意味では、移民を受け入れることはプラスに働く部分も大きいんだろうと思う。

 

ちなみに、イギリスでは、東ティモールで虐殺を行うインドネシアに抗議するために、インドネシアに輸送される戦闘機の工場に侵入して戦闘機を壊したらしい。これにより、実行犯4人を含む10人が逮捕され、最大10年、4億円の罰金を科される可能性がったそう。しかし、道徳的に正当化されるということで無罪になったらしい。反戦などの社会的活動が市民的不服従という文化に支えられて行われているイギリスの懐のデカさを思い知った。日本だとどうなるんだろう。やっぱり器物損壊で実刑になるような気がする。

アメリカでは、バンクシーの絵がイリーガルであっても公に認められることがあったらしい。芸術だからこそ認められるとしたら、芸術は違法性を乗り越えるんだろうな。違法性というのは、要は誰かが不幸になるということだから、その価値が認められれば、不幸を生み出すことはないのかもしれない。他方で、安易にイリーガルが認められるとして秩序が見出されることもあるだろうけど、そんな安易な真似はされないんじゃないかな。社会がもっといろんなものに寛容にあればいいのにと思う。

 

資本主義や商品文化、移民問題反戦など、社会問題に対するメッセージ性が強い作家。