人類と病ー国際政治から見る感染症と健康格差☆☆☆★★

 昨今コロナが流行る世界の中で、コロナについて一冊何かを、と思い、手に取った一冊。国際政治の中で、感染症などに対してどのような取り組みがされてきたかを解説する一冊でした。

 

 国際政治からみたとき、ある種感染症は人類の希望となりうるのではないか、と思いながら本を読みました。感染症は撲滅されるべきもので、現在のコロナについても何ら喜ばしいものではないことは確かです。死者も出ているし、希望というのはあまりにもナンセンスです。

 しかし、国際政治は現在敵を失ったように思います。今まで、西と東のように何らかの対立軸をもとに国家同士は対立してきました。そして現在、アメリカが自国優先主義を掲げ、国家の連帯が弱まってきています。国際協力が昔と比べてないがしろにされてきたのかもしれません。しかし、コロナなど感染症は、世界的に対応しないと防げません。そのため、国際協力の観点から見たとき、コロナは世界が結束する機会であり、結束しなければ解決しない問題です。そういう意味で、共通の敵として存在するコロナは、世界が結束する重要な場なのかと感じました。

 

 しかし、本書を読むと、やはり、実際はうまくいかないようです。WHOが出来上がり、世界の感染症に対策が講じられてきました。マラリアの撲滅などWHOは重要な役割を果たしてきましたし、エイズについても、世界を巻き込んで致死率を下げてきました。そのような中で、2002年にサーズが流行しました。このとき、中国やカナダに渡航延期勧告が出されましたが、あまり効果はなく、経済的な損害が大きかったようです。ただ、WHOは、中国、香港、ベトナム、カナダ、シンガポールに旅行延期勧告を出し、検査を徹底して、感染の防止に努めました。国際協力が発揮された瞬間でもありましたが、各国のWHOに対する感染症の報告は自発的なもので正確さや迅速性が保証されたものではなく、また、発生国である中国は適切な情報をWHOに伝えていないなど問題も浮き彫りになりました。

 このとき、経済的な損失が大きかったことから、国際保健規則は、感染拡大防止対策は、社会・経済に与える影響を最小限にとどめるように配慮すべきことが加えられました。この後、WHOは渡航自粛勧告を出していないようです。その後、エボラがアフリカで流行った時も、WHO内の担当地域ごとの協力ができておらず、適切な連携を取れず、対応は後手後手になりました。この時の反省として、緊急対策部署が設置されました。

 しかし、コロナ対策では適切に各国が連携を取れているとは言い難い状態です。これは、感染症が安全保障に関わるようになったからです。感染症の蔓延は国家間の軍事協力にも影響を及ぼし、安全保障に影響を与える以上国家の政治が感染症問題に非常に関わってくる事態になりました。中国は、アフリカなどに対して保健衛生の支援をし、プライドもあったのか、アメリカの援助をコロナについて当初受け入れないなど、国家の威信の問題もあります。

 このように政治が関わることで問題解決が難しくなる面があります。他方で、国家が協力してお金を出すことで解決することもできます。そのため、国家の関与は良い面悪い面両方あるようです。

 

 以上の通り、国際政治に左右されがちですが、このような世界的規模の問題だからこそ、国家が協力して取り組むことが期待されます。